寂甲子園の風船の詩(うた)
夏の甲子園でなく
冬の荒れた甲子園に来てしまった
すぐに六甲おろしの寒風に
身体全体がかじかんで
長くはいられない
空に向かって眼を上げても
雅な風船の舞はない
ただ、原子力発電所の光景の軌跡が
甲子園の広い空間に
ぼんやりと浮かぶだけだ
しかし不思議に気持ちが落ち着く
甲子園の孤独感の向こう側に
未知の親和感を取り出せる
薄暗い世界と向き合っている
甲子園をでた風船は
二度と戻らない
のこのこ戻るならそれは風船ではない
定年退職する自分も
ひょこひょこと顔を出せなくなった
しかし自分は完全には
なくならない
東京電力をなくしても
甲子園の風船の詩を
何時かまたどこかで朗読できると信じて生きていくからだ
甲子園の風船と原子力のもたらす
やすらぎ、刺激、興奮の光景の軌跡を
いつも心に浮かべながら